ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー『ネリネ』
少々古めかしい内装の店はきれいに清掃されている。
営業中のため、多少は人が入っているようだ。
今日の飾りは買い忘れた『変わり種』を入れるつもりだったのか、
愛剣らは入っていない。
代わりに店に来た『猫耳のおっさんの愛剣』が入っている。
使い込まれてはいるが、かなりいい品でいつも飾っている愛剣とは出来が違う。
ガチャガチャと机をかたずける。
その横では女冒険者がつまみも無く酒を飲んでいた。
「コウちゃ〜ん!一緒に飲まないかい?一人酒はちょっとさびしいよ。」
そういいながら俺の尻を撫でる、セクハラ冒険者。
「触るな、撫でるな、揉むな。つまみ位出してやるから、あっちのおっさん共と飲んでろ。」
俺の尻から手を離さずに目を輝かせ。
「なら私のつまみはコウちゃんだから、一緒に飲もう!」
などと意味の分からないことをのたまうしまつ。
毎回のこととはいえ面倒な。
「訳が分からん、それに仕事中だ。お誘いはまた今度にしてくれ。」
「うん、うん、じゃあ後でね?」
ムフフと笑いながらまた酒を飲み始める、俺の尻を見つめながら・・・
正直いやな予感しかしない・・・
「はぁ。」
溜息を一つこぼしカウンターへと戻る。
ちなみに女冒険者の名前はイマイラーナ・ウードウット。
翼族でスーパーモデルも真っ青な体系に、それは美しい鷹の翼に足首からしたが猛禽の足という店の床に優しくない体をしている。
いわゆるビキニをつけた戦士で。
腕や脚を守る手甲や脚甲は付けている。
赤いビキニで、下はパレオを着けている。
武器は長槍でドワーフの打った名品なんだとか。
ちなみに愛称は『イーナ』だ。
俺がカウンターでイーナのつまみを作っていると、
いつかの新米冒険者セシルがべろんべろん酔っぱらっているのが見えた。
おっさん連中に飲まされたんだろう。
「ぼきは〜!あの○ד#$%&!」
もう言葉になってない。
それを見て常連どもは笑ってる。
「なんれすか〜みんなして〜!なにが、おかすうぃんれすか〜」
おい、こっち来くんな。
「けんしゃさま〜みんなしてわらうんれすよー」
はいはい、としばらく適当にいなしていると。
「ZZZZZZ・・・」
ゴンッ!という音とともにカウンターに突っ伏し寝始めるセシル。
セシルに飲ませた常連どもに言って運ばせる。
とりあえず常連どもが帰るまで床に転がしておく事に決まったようだ。
ようやくイーナにつまみを持ってくることが出来た。
「はい、座って座って!さあ飲もうか!つまみも来たし。」
いや、仕事だから。
と戻ろうとすると凄まじいプレッシャーが店内を包む。
他の客が一斉に席を立つ。
こちらを見ずに金だけ置いて帰るもの。
顔を青くし走り去るもの。
そして、にやにやと笑いながら飾りの剣を回収して帰るもの、今日もツケかあのおっさん。
セシルにいたってはそのおっさんに足を持って引き摺られて行く始末だ。
「セ、セシルの分もつけとくか。」
プレッシャーの原因はこのイーナである。
この女冒険者のランクはB、その放つプレッシャーはこの店の常連でもキツイ。
しかも全員が帰るまで放ち続けるのだこの女。
気配という見えないものでのプレッシャー。
いちど「迷惑だ」と言ってみたら「あら、何もしてないじゃない?」
一瞬でプレッシャーを消し、そんな有難いお言葉が帰ってきた。
すばらしい営業妨害である。
そんなもの長時間くらい続けるとか正気じゃない。
実際俺は今、冷や汗が止まらず。
足の震えを我慢するので精一杯だ。
「ほら、お客さんいなくなったわよ?さ、飲みましょ?」
プレッシャーを消しのたまう。
「仕方ないか・・・」
溜息をつきたくなるのを我慢して、自分のコップを取ってくる。
幸いなのは俺はイーナより酒が多少強いという事だ。
どちらが先に潰れるかそれが勝負を決める!
「それじゃ、乾杯!」
「あぁ、乾杯・・・」
ああやって客を追い返す事さえしなけりゃ、いい客なんだがな。
性格だって、悪くないし。
体にいたっては極上だ。
そんなに、いい女なら種族は関係ないって?
そうだな。
顔がそのまんま鷹じゃなければ俺もコロッと落ちてただろうよ。
願わくば明日起きた時に隣にイーナが居ませんように...
次の朝。
イーナは居なかったが書き置きが置いてあった。
『ごちそうさま? イーナ』
もちろん、酒の事だ。
俺の『サクランボ』は守りきった。
言っていて悲しくなったが。
それでも、やはり惚れた女と・・・と思うのは俺だけだろうか?
まぁ、そんな相手も居ないんだが。
「あ〜頭いてぇ。」
二日酔いで痛む頭を抱え。
グダグダしながら、店の準備を始めるのだった。