ようやく、ようやく王都の城門が見えてきた。
長かった、通常なら馬車で3日の道が1週間かかったんだから…
あぁ、俺は甘坂一南。
知らない人は前の話を読んでくれ。
それでは長くなった道行を話そうか。
俺達は鎧熊の鎧部分や牙、爪などを馬車に積み村を発った。
ソルファとリンマードは馬に乗り、前方を警戒しつつ速度を合わせ走っている。
俺とハーネは行者席だ。ココじゃないと煙草が吸えないのだよ。
アリーナン?もちろん馬車のなかで白を愛でて、トリップ中だ。
「アリー、ズルい。私、白愛でたい。」
…口を開いたと思ったらこれかよ。
表情がいまいち変化しないハーネだが、付き合いの短い俺でも分かるほどムスッとしてる。
そんな時突然ソルファが右手を挙げた。ハーネが馬車を止め剣に手を掛ける。
「敵襲みたいだな?手伝うか?」
「イチナ、依頼人。私たち、護衛。」
「そうですよ、大人しく守られてくださいね?」
隣にリンマードが来てそう言ってアリーナンを呼びに馬車の中へ入って行った。
「どうやら待ち伏せされているようだ。恐らく盗賊の類だろう。どうする?今なら迂回することもできるが?」
「じゃあ迂回で。面倒事は避けるに限る。」
ソルファにそう返事を返した直後だった。
真っ白い毛玉が馬車から飛び出して行ったのだ…
突然の事に全員が固まっている。と、
「ああ〜!待って!あとちょっと!ちょっとでいいから!」
という事は……あれは白か!
そう言いながらアリーナンが顔を出し、毛玉に向かい手を伸ばす。
そして原因はお前かアリーナン!
「み〜〜〜〜〜〜!」
速いな。結構遠くから白の声が聞こえた。
「だめだ!あっちは待ち伏せされている!」
「ソルファ。もう行くしかないだろうよ。面倒とも言ってられん。待ち伏せは蹴散らしながら進むぞ。サウス!先行して道案内!白まで最短で頼む!」
俺の言葉にガウッと返事し馬車を飛び出すサウス。
それに続くように俺達は走り出した。
ソルファの言う通り、盗賊らしき男たちが待ち伏せしていた。
こちらに気が付いていないのか?
のんきに会話している。
「たい、じゃねぇお頭!こんなの捕まえたんですが、売れますかね?」
「あん?…み、みたことねぇ生き物だな。好事家には高く売れるかもしれねえなぁ。おい、俺は一度アジトに戻る。後は…分かってんな?」
ニヤリと笑うお頭。その手には白が握られている。
くそっ、遅かったかよ。
「…何で?」
そう呟くアリーナン。
知り合いか?と聞こうとした時、ソルファが囲まれた!と叫んだ。
気付かれてたのか…まあ、あれだけ騒げば気づくか。
まぁ、いい。
どっちにしろこいつ等の『アジト』まで行かなきゃならんのだ。
白を売りに出すつもりはないからな。
盗賊の数は…50人ほどか?
当然、人を斬るのは初めてだ。
爺さんとの斬り合いは何百回として来たが…
己の意思で人を殺すのは中々に覚悟が要るな。
そんな事を考えつつ脇差の『一匁時貞』を抜く。
ソルファ達も各々の武器を構えていた。
盗賊達から矢が飛んでくる、それを切り落とし開戦の合図とした。
「さっさと片して白を追うかね。おい、一人は残せよ?」
皆一様に返事をしていた。が、みんなの様子を見ると期待できそうにない。
アジトの場所を聞きださにゃならんのだからな?
サウスの鼻の届く範囲ならいいがそうでなかったら目も当てられん。
狼らしく牙と爪を使い獣の動きで、敵をなぎ倒していくサウス。
ハルバートを使い、凄い勢いで盗賊どもを減らしていくソルファ。
的確な狙いで敵を撃ち、以外にも身軽な動きでメロンを揺らすリンマード。
小柄な体格を生かした素早い剣技で敵を翻弄するハーネ。
何処から出したのか旗を持って応援するアリーナン。
…お前は魔法使えよ。
「死ねー!」
剣を掲げ向かってきた盗賊に対し横一閃。
盗賊はそのまま動かなくなった。
罪悪感は後回しだ。
アリーナンの残念っぷりに脱力しかけた体に活を入れる。
おかしい…
俺にほとんど敵が向かってこない。
護衛だからと皆が張り切っているという理由だけでは説明出来ない。
狙われているのはこのツァイネン騎士隊自体か?
いや、ツァイネン騎士隊と言うよりアリーナンを狙ってる?
アリーナンは旗を振る余裕がなくなったのか今は杖で撲殺している。
…だから魔法使えよ。
援護に回ろうとした時、視界の端にアリーナンを弓で狙う盗賊を2人捉えた。
アリーナンは気づいていないようだ。
「ったく!世話の焼ける!」
落ちている石を刀の切っ先で跳ね上げ、俺に向かってくる敵を切り付けた反動を利用し刀の柄で弾き飛ばす。
1人は石が当たり無力化できたがもう一人は矢を放つところだった。
矢が放たれたと同時に走りだし、近くにいた盗賊を矢の軌道上に投げる。
ザグッと投げた盗賊から音がした。
アリーナンの近くに居る盗賊どもを斬り散らす様を見て、ようやく俺を脅威と見たようだ。
しかし残念ながら敵と認識するのが遅すぎだ。
もう相当数が減っている。残っているのは13人くらいか?
しかし、逃げる様子がない。
…数で押す輩は早々に撤退すると思っていたんだがな。
その方がアジトまで付いて行けばいいだけだから楽だったんだがね。
こいつらの目にはまだ闘志が残っている。
それにソルファ達を襲っていた奴らは、まるで訓練でも受けたかのような連携を取っていた。
お粗末なのが1/3ほど。恐らく本物の盗賊と『偽物』が居たのだろう。
その『偽物』がアリーナン達を狙い、今も残っているという訳だ。
「うおおお!!」
敵が雄叫びお上げこちらに向かい走って来る。
俺は構えを取りアリーナンを守るように立ちふさがる。
すると、横合いからハーネとソルファ、そしてリンマードの3人が全てかっさらって行った。
構えを取っていた俺は無言で刀を振り血を飛ばす。
残せって言ったじゃねぇか。
返事しましたよねぇあんた達?
終わったことは仕方ない。
それよりも白だ。サウスの鼻で何とか追おう。
それと気になったことが…
「何で撲殺なんですかね?魔法使いましょう、魔法。」
刀を鞘に納めると振り返り、同時に魔導士に言葉をかける。
「使ってるじゃない魔法。ほら。」
そう言って見せてきたのは手に持ってる杖だった。
「おい、まさか…」
「これが私のオリジナル!『ワンド』と『フラグ』よ!」
ドドーン!と効果音が付きそうなくらいのドヤ顔である。
「魔道士は杖を装備しなきゃいけないの。でもね?重いの。魔法を使うとき動いちゃダメなのよ!?そんな重い物持ってられないわ!そこでコレよ!重くない!魔力で出来てる!でも使ってても動けるのよ!あ、『フラグ』は応援用よ!」
どう?誉めてもいいわよ?と言いながら頭を突き出してくるアリーナン。
それは、もう鈍器でしかない。
魔道士が魔法を使えない次点でいろいろアウトだ。
いや、一応魔法なのだが…納得できん。
初めて見た魔法が撲殺用の鈍器って、応援用の旗って…
魔道士と聞いて結構期待していたのだが、派手でなくともせめて魔法と納得できる物が見たかった。
俺は煙草を取り出しながらソルファをチラリと見る。
何となしにお偉いさんでは有ると思っていたので一応確認だ。
ソルファは苦笑しながら頷いてジェスチャーで撫でろと言ってきた。
「はぁ、うん。エライエライ」
適当ではあるが撫でてやると嬉しそうに「当然ね!私は領主何だから!」と。
ん?
…何だと?
本人は今の発言に気が付いてないのか、嬉しそうである。
後ろを向くとアワアワしているリンマードに、そっぽむいて口でヒュ〜ヒュ〜言ってるハーネ。
そしてフルフェイスで顔が分からないソルファ。
何よりもアリーナンが『領主』であることが驚きである。
しかし、何で領主様が冒険者になって金策してんだ?
よし、スルーだな。
今は白を取り戻すことが先決だ。
アリーナンの事は後回しに決定。
先ほど取り出した煙草に火を灯す。
紫煙が空へと上がっていくのを見ながら。
人を斬った罪悪感と白を取り戻した後の問題に頭を抱え、アジトに向かい出発するのだった。
そして、恐らくもう出番はない。