ギルド、それは冒険者になるための場所であり。
冒険者にとっての情報交換の場でもあるらしい。
仕事を受け揚々と出ていくものも入れば、失敗したのか項垂れながら入って行く者もいる。
見ているだけで中々に面白い。
「さあ!入るわよ!!」
ぐっ!とガッツポーズで気合を入れるアリーナン。
ソルファはフルフェイスの兜を外し頬を叩いて気合を入れる。
……入るだけでなぜそんなに気合を必要とするのか、分からないが。
ギィ、と軋むドアを開け中に入ると喧騒が…くっさ!!
「え?何これ?ものっ凄く!臭いんだけど!?」
酒の匂りに、汗の臭い。
食い物の香り、少々の便所臭さがアクセントだ。
…恐らく真夏に海の家を密閉して、人を入れたらこんな匂いになるんじゃないかな?
色んなスメルが入りまじり凄まじい物になっていた。
気合を入れていたのはこの臭いせいか…コレはキツイ。
そこに居る冒険者達はそんな事は気にならないのか。
酒を飲み、飯を食い大いに楽しんでいた。
ふと気になったので『白専用皮袋』を覗いてみる。
袋から清浄な空気が流れてきた…は?何で?
白は袋の底でお昼寝中である。
これもなんかの『加護』かねぇ?
白には問題ない事が分かったのであとは俺が我慢すればいいだけ。
…早く出たい。
受け付けは3つ有り、1つは買い取りカウンター、後の2つが以来の受付や登録、初心者への説明などをやっているらしい。
ソルファは買い取りカウンターへ行って馬車の中の鎧熊以外の査定を依頼している。
俺はアリーナンと冒険者登録だ。
「あら?アリーじゃない。おかえりなさい!」
「はいはい、ただいま。今日はコイツの登録よ。よろしく!」
この臭いの中で笑顔の接客……プロフェッショナルだな。
「イチナだ、よろしく」
俺は臭いで顔をしかめながらも挨拶する。
「ああ、初めての人にはこの香りはきついかもね?私は好きだけどなこの香り。あ、私はマーニャスタ・ゴウンバ。マーニャって呼んでね!」
スー、ハー、と目の前で深呼吸する。
…前言撤回、マーニャは鼻が腐ってる。
長めの黄色い髪を2本の三つ編みにしていて、瞳は茶色。
髪の色を除けばパッと見、文学少女である。
胸は慎ましいと言っておこう。
しかしごつい苗字である。
「ここ最近登録に来る人もいなくて寂しかったんだよね。皆入口に入って来てもすぐに出ていっちゃうしさ。」
そんなに悪い臭いじゃないのにね?と言うマーニャ…
サウスを連れて来たら悶絶して泡を吹くレベルだと思うが、どうだろう?
もちろん試す気は無いが。
「じゃあ、この紙に名前を書いてね。加護と得意な武器もお願い。あ、武器は大雑把でいいから。たまに武器に名前を付けてそれを書き込む人がいるのよね。以前ロングソードに『ウルトラドラゴンバスターソード』って付けてた人が居たけど。3日後、槍に持ち替えてたのよ?」
うふふふ、と笑うマーニャ。
危ねぇ、書き込むところだった。
まて、日本語で書いてどうする。
今更ながらコッチの字が書けない事に気づいた。
何故か、読めるし喋れるんだがな…こっちに来たときなんかあったのかね?
「すまん、字が書けないんだが。どうすればいい?」
「そうなんだ?大丈夫登録に来る半分は字が書けないから。代筆するから口頭で言ってね」
そう言われ答えていく。
どうやら字が書けないのは珍しい事では無いようだ。
「ハイできた。ここに血判を押して?うん、ありがと。ん〜でも加護が分からないのか…通常より下のランクからのスタートになるね」
ランクか面倒な。
取りあえず説明を待つことにしよう。
マーニャは書いた書類を席の横の天秤にのせる。
すると右傾いた天秤は上に乗った書類が消え反対側に現れた…なんだそれ?
「ん?ああ、コレは『約束の天秤』って言ってね?これに乗せると『契約と執行』の神に届けてくれるの。物凄い高級品なんだから。それと登録料として丸銅貨30枚もらうね。」
マーニャは人を呼びギルドカードを持ってこさせた。
クレジットカードぐらいの大きさで真ん中に水晶らしきものが埋め込まれていた。
「はい、ギルドカード。真ん中の記録水晶に血を一滴垂らしてね?カード自体に色んな神様が関わっているからスゴイ高性能だよこれ。倒したモンスターも記録してくれるからこっちもランク上げの時助かるんだよ。…なくしたら四角金貨1枚だから気を付けてね?」
高っ!いやでもそんなもんか?
神の加護付きのアイテムか、無くさないようにしないとな…
「じゃ、説明を始めるね。ギルドの依頼は大まかに討伐、採取の二つ。後は近隣住民から雑用…たとえば草刈や収穫の手伝いなんてのもあるわね。依頼にはそれぞれランクが付いててそのランクに成らないと受ける事をギルド側で拒否させてもらいます。身の丈に合った仕事を選べって事ね。」
まあ、当然か。
「ランクはF〜SSまであってモンスターも同様にランクずけされているわ。Cランクから上は国の有事の際に徴兵されるわ。それと通常、加護が有る場合はEランクからのスタートで『戦の神』の加護がある場合1ランク上からのスタートになるの。イチナの場合加護が分からない状態だからFランクからのスタートね」
今受けれるのは雑用かな?と言いながら説明を終えるマーニャ。
気になったことを聞いてみた。
「この後教会で加護を受けてもランクは変わらないのか?」
「だね。もう『契約と執行』の神が受理しちゃってるから。大丈夫Fランク何て5回も受けて成功すればランクが上がるから!ランクアップテストがあるのはDランクに上がってからだしね?Dランクまでは数をこなせば上がるけどDより上はテストに合格しなきゃダメなんだよ」
何だかメンドクサいな。
「なあ、契約と執行の神ってのは他の神とは違うのか?随分と扱いが違うようだが…」
「あ〜、そう思うよね?契約と執行の神に加護はないの。文字通り『契約と執行』にまつわるものなら何でも…たとえば、この契約書とかだね。それに『力』を持たせて自分で処理しちゃうの。この天秤は優先的に神様に送る道具なんだよ。本来世界に干渉できない神様の数少ない例外だね」
要はこの世界の契約書の類に判子を押し続けているわけだ…ちゃんと寝てるのか?
「あ〜!もう!説明も終わった!ソルファの方も終わった!さっさと出るわよ!」
アリーナンは限界のようだ。
「み〜?」
アリーナンの叫びで起きてしまったのか白が袋の穴から顔を出す、反対側の穴からは白い尻尾がちょこんと出ていた。
うむ、鍋猫ならぬ袋猫。
バージョン『白』だな。
「もうなんでこんなに可愛いの?何時でもお出かけには白たん入りの袋を持ち運びたいわ!」
ウヒョー!とギルドの臭いと白の可愛さで良くわからないテンションになっているアリーナン。
白たんってなんだよ。
はぁ、と溜息をつきながらソルファに声を掛けギルドを出ようとすると。
「待ちなさい!」
マーニャに止められた。
何ですかね?一体。
「そ、その子は何かしら?是が非でも!!調査のために置いて行って欲しいのだけど?」
ハァハァと変態チックに息を荒げそんな事を言うマーニャ。
その目はアリーナンと同じものだった……
…絶対、調査なんぞしない。
間違いなくコイツはアリーナンの同類だ!
「私の白たんに手を出そうとは……マーニャ、死にたいようね!」
ビシィ!とマーニャを指さしてバカなことを言い始めるアリーナン。
だれがお前のだ。
「そう、その子は白たんと言うのね…実に良いわ!アリーナン、あなたが立ちふさがるのなら私はそれを超えて行く!」
何か、2人で盛り上がり始めたな。
……ほっとくか。
「さて、ソルファさん。教会に行きたいんだが案内してくれないか?」
俺に加護があるのかどうかと、白に幾つ加護が付いているのかを知りたい。
できれば戦の神とやらに会ってみたいのだ。
「え?でもお嬢様はどうする?何か凄い事になってるが…」
後ろではアリーナンが得意の魔法『ワンド』振りマーニャに殴りかかっていた。
マーニャは短剣を武器に果敢に挑んでいる。
その場にいる冒険者たちはどっちが勝つかで賭け事や酒の肴にしているようだ。
「あ〜うん。…仕方ないソルファはアリーナンの護衛だしな。なら俺は他の人に頼むとしようかね」
ソルファにとって現状は動くに値せずといった所か?
ただ、戸惑ってるだけかもしれんが。
さて、案内を頼むにしてもどうするか?
ざっくり見渡したがむさ苦しいおっさんばかりだ。
町に出て聞いて回った方が良いか…。
ソルファやアリーナンのような綺麗どころならまだしも。
ギルドの臭いおっさんに案内されたくわはない。
そう思いさっさとギルドを出る。
ギルドを出てから深呼吸。
空気がうまい、そう感じたのは気のせいじゃないはずだ。
我慢していた煙草に火をつけ肺一杯に吸い込む。
「ふー。…さて、行くかね?」
「み!」
白の元気な返事を聞きながら、煙草を銜えて歩き出す。
教会の道を聞きながら。