俺は、戦場が見える丘に登り見下ろす。
「お〜、コレはまた壮観だな」
眼下に広がるのは、1000体の魔物と戦う王国軍『5000人』。
正直、俺等いらないんじゃね?
「クフフッ1000体規模と言っても王都の近くに来たのが間違いじゃな。攻め落とすなら十倍は持って来ねばの?まあ、このままでも押し勝てるじゃろうが、心配なのは……」
「魔族と竜、だな?」
「うむ、その2つは別格じゃからな」
俺とルナはギルドの冒険者達の援護をハフロスから申しつけられたんだが…
第二陣が接敵してから軍の士気が上がり押し返しているのだ。
正直、数に差があるのに、何で苦戦するのか分からんがね。
たまに流れてくる魔物は俺が行く前に他の冒険者に倒される…俺に魔石だけ寄越せよ。
しばらくは余り物を探すだけだったが…
「ん?何だ…騒がしくなってきたな」
何が有った?
その時、左翼の兵が慌ただしく動いていた…
「後退しろ!後退だ!くそっ何でこっちに魔族が2人も居るんだ!!勇者様はまだか!!」
「無理です!現在勇者様は4人共もう一人の魔族と右翼側で交戦中です…」
「冒険者共はどうした!?奴らでも時間稼ぎ位は出来るだろう!?」
「1000体規模のスタンピードで魔族が1体でしたから、総大将があぶれた魔物の退治を命令しちゃったんですよ!」
「今からでもギルドマスターに伝令を出せ!総大将のバラーグ様の相手してる金獅子隊の大将にもだ!左翼に魔族を2体確認、援護を求むとな!急げよ!!」
「了解!!」
脇差の『一匁時貞』を振るい鳥の魔物を迎撃する。
「シッ!……なあ、ルナ。何か流れてくる魔物が多くないか?」
斜めに切り裂かれ地面に落ちる鳥の魔物…魔物ってのはこんなもんなのかね?
斬った魔物から魔石を探す…あ、魔石ごと斬れてる。
鳥の魔物に付いていた魔石は爪楊枝のような長さと細さだ…
おかしいな…教えてもらった色と違う。
まるで色が抜け落ちたように白い。
本来は黒い筈なんだかな。
ちなみに、背中では黄助と白が共に鞭を構えて臨戦態勢だ。
「フンッ!そう言えばそうじゃの…何かあったかのぅ?」
ゴウンッ!という風切り音と共に大剣で猪型の魔物をぶった切るルナ…パワフルだ。
ルナも剣の切っ先でビー玉位の魔石を取り出す、こっちは黒いな…何でだ?
「むうぅ、ランボアに埋められた魔石としては小ぶりじゃな…魔族めケチりよったか?」
そう言いながらも袋にしまう。
「しかし、いい加減。後方での残り物の処理も飽きてきたんだが…楽して稼げるってのは嬉しいんだがねぇ」
「そうじゃの、コレは楽しくないのぅ…」
そう言って魔物を斬り続ける俺達、魔石を回収しながら有る事に気づく。
「なあ、ルナ。魔石ってのは、形が違う物なのか?」
「む?いや…魔族一人一人形が違うが、何故じゃ?」
あれ?じゃあさっきの爪楊枝型は?あの鳥以外見てないから変だと思ったんだが…
「…ルナ、この戦場に魔族が二人いるかもしれんぞ?」
そう言いながらさっきの爪楊枝型の『白い魔石』をルナに見せる。
「む、確かに形が違うな…中の魔力が抜けているがお主…魔石を斬ったのかえ?」
「斬ろうと思ってじゃないがな、何か問題あったか?」
「魔石を斬った剣は魔剣になると言われておる…魔剣は強力じゃが、使う者がその魔石を作った魔族に操られることが有るゆえに、国で回収しとるんじゃよ」
マジか…
「…要はだ。その魔族を殺せば問題無いという事だな?」
うむ、まあそうなるかの?と言うルナ。
よろしい、ならば本気で魔族狩りだ…
竜ともやってみたいが、また刀を奪われたら今度は戻って来ない。
「よし、一度ハフロスの所に戻ろう!魔族が何処に居るか、情報が欲しい!」
「仕方ないのぅ、そちらの方が楽しそうじゃし構わんよ」
方針が決定した所でサウスが血みどろになって戻ってきた…おい!
「サウス!だ、大丈夫なのか!?」
くそっ!サウスなら大丈夫と思って、目を放さなければよかったか!?
「ガウッ!」
あれ?何か平気そうだな…もしかして返り血か?コレ…
魔物相手に、ほぼ無傷で返り血のみか…強くなったなこの子。
……?何か縮んでないか?
黒い2メートル程の体から、灰色の体毛になり1.5メートル程に小さくそしてシャープになっていた。
顔つきも心なしか精悍だ。
また階位が上がったと見て良いんだろうか?
やはり上がるのが早い気がするな…単純に白の膨大な魔力のお蔭かもしれんが。
階位が上がる条件は魔力だ。
ルナは血肉で器を広げ魔力で満たすことで階位が上がると言っていた。
そして、白の膨大な魔力でテイムされたサウスは、白から魔力を供給されているのではないだろうか?
だからこそ器を広げるたびに即、階位が上がるのでは?
…即席の仮説にしては中々のもんじゃないか?
「ほう…『マギウルフ』か。魔法障壁が使える数少ないウルフじゃの。簡単なイメージ魔法も使えると聞くぞ?」
俺より先に魔法を覚えるなんて本当に優秀だな、チクショウ…
俺も覚えてぇな魔法…
「ハァ……行くか…」
サウスが先に魔法を覚えたことにショックを受けつつ、俺達はハフロスの居るであろう王国軍のテントに向かうのだった。
テントに着いた俺達はハフロスを探していた。
「ハスロスは総大将のテントの中か?…なんか慌ただしいな、誰か魔石の事に気づいて報告したのか?…まあ、入ってみりゃ分かるか」
そう言って俺は総大将のテントに向かい歩き出す。
「待て、待たんか。簡単に入れる訳ないじゃろう?ここは、我に任せい」
そう言って見張りの兵士の2人に近づいていくルナ。
確かに、ルナなら王族だし問題なく入れるか…
兵士に話をしているルナがヒートアップしてきた…おいバカ!ヤメロ!?
ゴスっ!ゴシャッ!と言う音と共に見張りの兵士が崩れ落ちる…何してんの?
「なあ…」
「言うな!分かっておる!…我が任せいと大見得切ったのにコヤツ等、入れてくれんのじゃもん…」
もんとか言うな…
頬を膨らませ反省のはの字もしてないルナに呆れるしかない…
「ハァ…取り敢えず入るか…」
テントの入り口を潜るとソコは人形で溢れていた…
人形と言うか元の世界の『フィギュア』か?アレは…
そう広くないテントの壁面に50体くらいの精巧な『アニメキャラ』達が並んでいた…
『転生者』か?しかもフィギュア職人。
もしくは誰かから買っているか…まあ、割とどうでもいいんだが。
腰の括れとか、服のしわとか…いい仕事してるぜ。
ああ、中には、ハフロスと豚が居た。
それと、ほら、あの買い食いの人…滅茶苦茶、睨んできます。
ハフロスは総大将の豚
バラーグ
を睨みながら…
「……魔族は三体です、一体は勇者様達に任せていますが…状況は芳しくない様ですし。バーマック殿が勇者様の援護に向かわれてはどうでしょうか?左翼には冒険者を向かわせますので、勇者様がそちらを倒し次第向かっていただ…」
「少し待て…おい小僧。何故、貴様がここに居る?貴様は他の冒険者たちの援護の筈だが?」
「話し会いの最中すまんが、俺達のほうで魔石を2つ確認したんで、報告に…あと1匹仕留めに行きたいんだが許可くれないか?あと魔族についての情報も」
俺はハフロスに向かってそう言った…
「おい、小僧…無視するとは良い度胸だな?」
「あ〜、確か金獅子隊のバー…マックだったか?そう睨むなよ…買い食いできなくしちゃうぞ?」
ピリッとした空気が流れる…
このおっさんとは、相性が悪い…腕前はともかく見た目が家の親父に似てるからか?
ちなみに俺の親父は真面目なサラリーマンだ、神薙流のかの字も知らん。
背中の黄助から無言で止めんか。と鞭が飛んできた。
「イテッ…分かったよ黄助」
「み!み〜!」
白も鞭を振っているようだが…
リュックに当たり、ペチペチと音が聞こえるだけであった。
「んん?ファ、ファルナーク様!?何故こんな所に!?」
総大将の第三王子バラーグだ…コイツが作った人形なのかが気になります。
ハフロスとバーマックも、え?と言う顔をしている…というかルナに気づいてなかったのかよ。
俺の後ろに隠れるように、立っているから分かりにくい…のか?
「ファルナーク殿がいらっしゃるなら、魔族を1体引き受けて頂きましょう、…イチナさんは予定どうり『他の』冒険者を『援護』してください。そうですね…援護する場所はこの辺りが良いでしょうね。すぐに向かってください、よろしくお願いしますよ…」
ハフロスは『左翼』の中心を指でさす。
「援護かよ…魔族狩りでもしようかと思って情報を貰いに来たんだが…」
魔石を斬ったとか流石にここでは言えない…ん?左翼?
…援護だし?危ない奴が居たら助ければいいんだよね?
ソイツが魔族を相手にしててもねぇ?
俺が口元に笑みを浮かべながら、ハフロスを見るとハフロスは無言で頷いた…許可頂きました!!
それから魔族と遭遇しても分からない俺に、多少の知識を授けたハフロス。
まとめると魔族は黒くて、とても固い鎧を着ているらしい…
すまん、説明が専門的すぎて、今一理解出来なかったんだ。
「…あいよ、じゃあ行くわ…ルナはどうするよ?」
「ファルナーク殿はバーマック殿と一緒に軍馬で中央を通って、左翼に出てもらいます。軍の中では人気が有りますからね、士気を高めるためにもお願いします」
仕方ないのぅ…と嫌々ながら了承するルナ。
ルナの肩をポンと叩いて頑張れよと告げテントを出る。
外で待たせていたサウスを連れて俺は、左翼に向かい走り出すのだった。
「ガウッ!」
サウスが吼えるのと同時に風の刃が前方の群を切り刻む…
魔法すげぇ、そしてサウスすげぇ。
俺も使いてぇな…魔法。
風の刃で倒せなかった魔物に止めを刺しつつ、そんな事を考える。
一仕事終えたサウスが誉めてとコチラに頭を出してきた。
苦笑しながらサウスの頭を撫でてやる…
背中のリュックから黄助が鞭で肩をポンポンと叩いて慰めてきた…泣いちゃうよ、俺?
「ほいじゃ、行こうか…魔族と戦ってる奴探しに」
サウス達の返事を聞いて捜索を再開する。
その時サウスが何か見つけたようだった…おいっ!急に走るな!
そこには、魔物と兵士の死体の山…中心には黒い何か。
アレが魔族か?
それと対峙しているのは、見知った冒険者だった…
「イチナじゃない…何してんの?」
あんた援護じゃないの?と何時もより元気が無いアリーナン…コチラに一瞬だけ視線を寄越すとまた黒い何かに視線を戻した。
ソルファは黒い何かを睨んだまま、ハルバートを構えているが…喋らない。
兜は飛ばされたのか顔がさらけ出されている、心なしか顔色が悪い…大丈夫か?
「何してんのはコッチの台詞だ…」
そう言いながらも黒い何かを観察する……えぇ〜。
肌の色は青、顔や髪は口から下以外が兜で覆われている…
間違いなく男だろう、だってムッキムキですもの。
まあ、骨格から判断したんだが。
獲物はレイピアか…何故だ、お前は明らかにパワータイプだろう?
問題は…だ。
黒い鎧は胸板を隠すタイプで腹は露出している、背中は膝辺りまで楕円形の(黒い盾か?)物に覆われている。
足元はサンダル…何でだ?
兜には触覚らしき物が付いていた…
パッと見『台所の魔王』である。
俺はリュックを下ろしアリーナンに問いかける。
「アレが魔族で間違いないか?」
「ええそうよ……ハァハァ白たんの幻覚が見えるわ…」
確認もとれたし、俺はアリーナンをスルーしてソルファに近寄る。
「イチナさん…何故来たんですか?」
魔族から目を放さずに問うてくるソルファ。
やはり顔色が悪い…鎧を着ていて分からんが怪我してんなコイツ。
「援護だよ?ハフロスからここいらの冒険者の援護を頼まれたんでね。…まさかお前たちが魔族とやり合ってるとは思わなかったが」
「お〜い、そろそろ良いか?せっかく待ってやったんだから楽しませてくれよ?」
……『G』が喋った!!?
「もう少し待て、後で相手してやるから…な?」
特大の殺気をぶつけてやると魔族は口元を緩めて仕方ねぇなと呟いた。
「で?何でお前らがコレの相手をしてるんだ?あぶれた魔物を狩るにしては出過ぎだし、魔道士と護衛なら後衛配備だろ?」
「実は…」
そう言って何が有ったのか話し出すソルファ…俺と魔族は耳を傾ける。
魔族…意外と素直だよな。
コレはイチナ達が総大将のテントに行く少し前の事……
「ほ、本気で言っておられるのですか…?」
「フヒッ…僕に恥を掻かせたのは君じゃないか?簡単だろ?ただ『魔族』の鎧の一部でも持って来ればいいんだから、それで水に流してやるよ…ツァイネン卿は納得したかもしれないけどね?謁見の時に言ったよね、僕はまだ許さないって」
「確かに、あのいかがわしい人形を壊したお嬢様も悪かったですけど…」
「人形じゃない!!フィギュアだ!!!あの『魔法洋女アメリカン』は魂を込めて作った大作だったんだぞ!!それを…それを…くっ、この程度で済むんだ、有難く思え!!!」
バラーグの魂の叫びが木霊する…
そこにハフロスとバーマックがやって来た。
「いったい何の騒ぎですか?…バラーグ様、先ほどの報告の件でお話が…アリーナンさんとソルファさん外で待ってもらえますか?少々伝令を頼みたいもので…」
「分かりました、それでは失礼します…お嬢様、行きますよ?」
ソルファは兜を脇に抱えて、総大将に向かって苦い顔で頭と下げる。
アリーナンは足を止めバラーグに真面目な顔で問いかける。
「……もう一度だけ、確認します。魔族の鎧の一部を持ってきたら、もう関わらないで頂けるのですね?」
「フヒッ、もちろんだとも。そうだ!ここに居るギルドマスターと近衛金獅子隊隊長のバーマックを証人としよう。ああ、そうそう魔族は今左翼の中心部に1体居るそうだ…頑張りたまえ?フヒヒッ」
「なっ!アリーナンさん止めなさい!Cランクの貴方では死にに行くようなものです!」
ハフロスがアリーナンを必死に止める。
アリーナンはハフロスとバラーグそしてバーマックに一礼してテントを出たのであった。
「という事が有りまして…」
…やっぱバラーグが作ってたのかアレ。
「しかし、鎧の一部ね…くれないか?」
俺は魔族に問うてみた。
「無理…どうしてもっつうんなら倒して見せろや…」
レイピアを構えて殺気を放つ魔族…
「サウス、ソルファとアリーナン達の護衛を頼む。黄助は白をアリーナンから守ってくれ」
私はまだ戦えます!とソルファ。
ガウッ!とサウスの返事を聞く……ん?黄助は?
が、がぅとリュックから抜け出せない黄助を先に出た白が引っ張っていた…
「…ソルファ手伝ってやってくれ…それにお前、怪我してんだろ?アリーナンの魔法で援護もして欲しいし壁役がサウスだけだと心許無いんだよ」
分かりました…と渋々下がるソルファだった。
「おいおい。一人で良いのか?…すぐに終わっちまうぜ!!」
そう言った瞬間一気に踏み込んで喉めがけ突きを放つ魔族。
速い、が。
「ああ、そうだお前の魔石の形は針のやつか?」
老虎の黄助程じゃない…俺は『斬レンジャー』でレイピアを掴む。
「んだとぉ!!?……何者だテメェ」
「質問に答えろよ…お前の魔石の形は針のやつか?」
ちげぇよ!と否定しながらレイピアを引く魔族…
「何だ、外れかよ…」
「テメェ…この俺を外れ扱いだと?ユルサネェ…」
怒り浸透の魔族くん。
俺は脇差に手を掛けた。
それじゃ、やりますか?