最近思うんだ…俺はこの世界でどの位、強いのかと。
だからこそ受けてみようと思う。
ランクアップテストを。
ちなみに今日は白に起こされた。
というか白が顔の上で寝ていた。
犯人はトコトコ歩くと音がするアイツだ。
死因・子猫で窒息…アリーナン辺りは喜びそうだな。
という訳でやってきました、ギルドです。
サウスは2日続けてお留守番である。
「なあ、ソルファ?」
「……なんですか?」
「後ろのコレ如何にかしてくれないかねぇ?」
俺は煙草を銜えながら問いかける。
紫煙が空に消えて行く…良いねぇ久々の感覚だよ。
「白たん、ほ〜らコッチのほうが良いわよ?」
ハァハァ言いながら自分のポケットを広げるアリーナン。
白は当然、威嚇しているし黄助の鞭も唸る。
時々「あふんっ!!」とか聞こえるが気のせいだ。
「……無残…ソコはまずイチナから…ポケットに詰める…」
意味不明なパークファ、何だポケットに詰めるって…怖いわ!?
おかしいな、やる気十分で宿から出て来たのに、すでにマイナスに近い…
流石、脱力兵器1号2号だ。
猫の1号、意味不(明)の2号二人合わせて『マイナスパワーズ』だな。
「ごめんなさい…無理です」
ああ、そうだよね。
「すまん、俺こそ無理を言ったな…」
もうあれだ…沈めるか?
思考が物騒になってきた時、ルナが声を掛けて来た。
「何しとるんじゃ?お主等?入らんのか?」
……そうだな、入ろうか。
ルナに進められ俺達はギルドに入るのだった。
受付まで行くとマーニャが気づいて声をかけて来た。
「イチナさんいらっしゃい!…白たんは?」
そうかコイツがいたな…パークファは3号か。
「ランクアップテストを受けたいんだが、ハフロスから聞いてるか?それと詳しい説明も頼む」
「はい、聞いてます。説明ですか…そんな難しい事は無いですよ?Cランクに上がるためのテストは、ギルドに所属する冒険者と戦ってお墨付きを貰えばいいだけですから。すぐに準備しますね」
良いのかそれで。
もっとこう…このモンスターを狩って来いとかじゃないのか?
「1度目ののCランクアップテストはきつめになってますから気を付けてくださいね?」
「只の戦闘だろう?何がキツイんだよ?」
「Dランク対Bランクパーティーですから。皆さん絶対に一回じゃ合格しないんですけどね?」
は?何ソレ。
何を思ってBランクパーティーをDランクのテストに出した?
「二度目のテストからは、Cランクのモンスターの討伐になるんですが一回目からソレを出しちゃうと死人が多かったんですよね、ですから指導も兼ねてBランクパーティーに出て貰ってるんです」
う〜ん、分からんでもない…か?
ソレを倒せばランクが上がると分かっていれば浮足立つ。
そこには隙も生まれるだろうしな。
だからこそ力量差がかけ離れたBランクの『指導』を受けてから…という事かねぇ?
……全員倒したらどうなるのか気になる。
狙ってみるか?
「では、奥の訓練場で待っていてください…白たんはお預かりしますよ?」
え?ここ、訓練場とか有ったんだ…そして白は預けません。
俺はソルファの案内で、リュックをかずいだまま訓練場へと向かう。
後ろから「ハァハァ」とか「……じー…」とか聞こえるが気にしない。
「ここがギルドの訓練場になります」
お?意外と広いな。
リュックを下ろし白と黄助を外に出す。
案山子や馬防柵などが端の方に寄せられている。
案山子などは、暫く使われた様子が無い…寂しいねぇ。
「大丈夫ですよ、教官…私たちはそう呼ぶんですけど、皆優しいですから。私たちの時は剣の構え方から、指導してくれましたよ?」
そう言うソルファにアリーナンが一言。
「そうね、手取り足取りネチネチとね…私は魔道士よ!?何で剣を振らなきゃいけないのよ!!!」
ムキー!!と怒り出すアリーナン…
パーティーでも受けれるんだな、ランクアップテストって。
しかし、Bランクに指導という名のセクハラを受けていたのか…
こいつ等女ばっかりだったからなぁ。
ソルファは完全に指導だと思っているがな。
キツイって聞いてたからなんか微妙な感じだ。
中々来ないので。
何となく訓練場の中央に案山子を立ててみた。
まあ、特に意味は無いのだが。
「……コレは良い案山子…だ…」
中央に立てた案山子を触りながらそう呟くパークファ。
…そうか、良かったな。
黄助が白を拘束して案山子の前に来た。
白を放すと何かしている。
鞭を案山子めがけ振るう…スパァアアン!といい音がして案山子が揺れる。
「がぅ」「み?」鞭白になり案山子に振るう…ピチッ!と可愛い音が聞こえてきた。
「み、み!」何度も肩の鞭を振るう白、ピチペチと音が響く…うん、練習は大事だよな?
とことん白は、戦う事に向いていないと再確認するできた出来事だった。
「お前等か?ランクアップテストを受けるDランクってのは」
お?やっとお出ましか…
どうせもう会わないから特徴だけ伝えよう。
髭、筋肉、ムサイ。
獲物はオーソドックスにロングソードと40cmほどの盾だな。
歳は全員30くらいか?
「遅ぇ、待ってんだからさっさと来い…白が寝ちまったじゃねぇか」
さっきの練習で疲れたんだろうな…今は案山子の下でお休み中である。
黄助はその横でいつでも連れて行けるように待機中だ。
「おう、すまねえ……待て、何で俺が謝ってんだ?テスト受けるのお前等だよな?」
「まあまあ、ガッコル。僕らを前に強がってるだけだよ、可愛いもんじゃないか」
コッチは頭部の天辺がはげた金髪の男だ。
弓使いの様だな…この髪形のレンジャーって新しいんじゃないか?
他にもフルプレート装備でタワーシールドを持った重騎士と俺じゃなく女性陣をジロジロ見ているちょいワルオヤジ魔道士などが居る。
「テストを受けるのは俺だけだよ。何か不満でもあるか?」
「はぁ?お前一人で俺等とやるのか?…ギルドからはパーティーだってきいたぜ?」
いや、知らんよ。
「伝達ミスじゃないのか?」
「マジか…ちっ、仕方ない。俺だけで相手してやる」
ん〜それじゃ困るな、俺は全滅を狙ってんだから。
「俺としては全員で来てほしいねぇ…勝負にならんぞ?」
渾身の殺気をBランクのメンバーに叩きつける。
「み!?」
あ、すまん白、起こしたか…黄助、頼んだ。
黄助は無言で白を鞭で拘束し、邪魔にならないように離れて行った。
一方、Bランクのメンバーは全員自分の武器を構えていた。
「お前…何者だ?こんな濃密な殺気Dランクが出せるようなもんじゃねえぞ…」
俺は煙草を取り出し火を付ける。
「Dランクさ、まだイメージ魔法も使えない新米だよ」
魔力が足りないだけだが…
カルトイヤは、上手くやってるかねぇ?
「……俺はこの『スピカ団』のリーダー、『速剣』ガッコル・マイマーだ。お前は?」
「甘坂一南、二つ名は現在選考中だ」
心底、要らんがな。
肺一杯に紫煙を吸い込み、煙草の燃える音が聞こえる。
「お望み通りに全員で相手してやる…後悔するなよ?」
ガッコルは一度下がりスピカ団としてフォーメーションを組んだ。
フルプレートの盾持ちが最前列、次がガッコル。
その奥に弓使いと魔道士という組み合わせだ。
恐らくガッコルは遊撃だろうな…
フーーッと肺に入れた紫煙を吐き出す。
「それじゃぁ…」
煙草を指で上に弾く。
「やるかねぇ…」
地面に落ちたのを合図に両者が動き出す。
先制は俺。
目の前のフルプレートが盾を構え守りの構えを見せる。
が、盾ごと吹き飛ばすだけだ。
「無手武技・『剛脚』!!」
ゴガン!!派手な音を響かせ叩きつけられる回し蹴り。
構えた盾に足形の凹みが出来た。
「ぬおぅ!」
おお!初めて声を聴いた!
しかし、意外と重いな…飛ばなかったぞ。
良く見ると盾が地面とバンカーで繋いであった。
そりゃ、飛ばんわな…
「モーションがデカいんだよ!!」
横からガッコルが切りかかってきた…回し蹴りだぞ?当然だろうが。
二つ名の『速剣』に違わぬ剣速…確かに早いが…
「甘い」
剛脚の回転そのままに脇差の『一匁時貞』を抜き、ロングソードを受け流し斬り返す。
舌打ちをしながら下がるガッコル。
ん?何故下がる?
……チョイワル魔道師か!?
「フレイムアロー…終わりかな?」
炎の矢と混じって弓使いが逃げ場を無くすために矢を射ってくる…
こいつ等、完全に殺す気だろ?
「ったく…アホか!!お前等は!!」
まあ、手加減して欲しくもないが、こんな所で火の魔法とかアホとしか言えない。
火事になったらどうするんだ?
矢を切り払い炎の矢を斬レンジャーで殴り潰す。
軽減してくれるだけで無効化じゃないんだよ?コレ。
魔力を通すのを忘れていた…外すのが怖いな。
切り払った矢の矢尻を回収しながらそんな事を考える俺だった。
「ははっ、お前、化け物か?何であれで無傷なんだよ…」
無傷じゃないですよ?
斬レンジャーの中は恐らく大変な事になってます。
「もう、ごうか…うぉう!!」
何か聞きたくない単語をガッコルが吐きそうになったので回収した矢尻を投げてみました。
「俺、最近思うんだ…」
「な、何をだ?」
俺はこの世界でどの位、強いのかと。
ガトゥーネに勝つなら、この世界の最強を鼻で笑えるくらいに成らないと駄目なんじゃないじゃ無いかとな…
まあ、そう思ってやり過ぎるのが俺の悪い癖でも有るんだが…
それでも、じじいに勝った事は一度も無いんだが。
「そういう訳だ、俺の礎になってくれ」
「続きは!?理不尽すぎるぞ!?」
む?何故他のメンバーまで不満そうな顔をしているんだ?
「……まあ、いいか。行くぞ?」
先ずは魔道士と弓使い…
回収した矢尻で投球術を強行する。
狙いは『杖』と『弓』。
俺の狙いが分かったのかガッコルが突撃してくるが…残念、一歩及ばずだ。
キキュオンッ!と目視不能な速度で目標に向かう矢尻。
ガスッ!っと2発の矢尻は壁に突き刺さった。
杖を半ばで折れ、弓もこの戦闘では使い物にならないだろう。
「痛ぇ…中は火傷してんなコレ」
投げた後、突撃してきたガッコルを斬レンジャーで受けとめて出た感想だ。
「くそっ!お前の相手をしたばっかりに大赤字だよ!!あいつ等の武器、幾らするか知ってんのか!?弁償しろこの野郎!!」
「大変だなリーダーって…Bランクに成ったばかっかりにこんな目に合って…これからも頑張れよ?」
うるせえ!とロングソードを振り回すガッコル。
冷静に行こうぜ?
後ろからフルプレートの彼が近づいていた…盾の裏から片手斧を取り出し振りかぶる。
前からはガッコルが速剣の名前の通りの連撃の最中だ。
ガッコルの振り下ろしの剣撃を半身で避け、刀の柄で剣を叩いて地面に振り抜かせ体勢を崩し。
その隙に、フルプレートの奴の首に手刀を打ち込み、その隙間から首を掴む。
そして、そのまま刀の切っ先をガッコルの首にあてがう。
「どうする?終わっとくか?…まあ、言いかけたのを邪魔した俺が言うのもなんだが」
残念ながら全員気絶という目標は達せられなかったが…
「ああ…ああ!!合格だよ!クソッタレが!!……あぁ、ちくしょうマジで受けるんじゃなかった…大赤字だよ…」
すまんな、一番面倒そうだったしアイツ等。
チラリと魔道士と弓使いの方を見ると自分の武器を呆然と眺めていた…
あ〜悪いことしたな…
「ああ、くそ……合格の事は俺から伝えとくからさっさと帰れ…」
そう言われその場を後にする俺達。
「流石イチナさんですね!Bランクのパーティー相手に勝ってしまうなんて」
有難うよ、ソルファ。
しかし、課題も有る。
殺さない戦いが俺は苦手だと、今分かった。
…おかしい、俺って現代人の筈なのに。
「……頭…おかしい……」
「そう?イチナだし、普通じゃない?」
何だ、その俺なら当たり前みたいなリアクションは…
パークファそれはただの悪口だという事に気づいてるか?
「イチナさん!おめでとうございます!!」
おおぅ、受付に戻ってすぐか…流石にまだガッコルから報告は言ってないだろうに。
「二つ名が決まりましたよ!」
…そっちか。
「要らんぞ」
「何言ってるんですか!?この二つ名、私が欲しいくらいですよ!?」
え?どうゆう事?
「コホンッ…発表します!!イチナさんの二つ名は…」
引っ張るな…それに発表ってのはこの事か?
「『白守』です!!!」
……ああ、そう。
って事は何か?俺は今度から『白守』のイチナとでも名乗ればいいのか?
由来がアレだし今一しまらねぇな…
「な、なんですって!!?」
お前はいちいち反応するな。
「む?我の案が取り入れられたか。クフフッ」
ルナよぅ、笑い事ですかねコレは?
「『白守』ですか…イチナさんにぴったりですね」
そうかい、でもな?
「み!?み〜み〜!?」
白は気にいらないみたいだぞ?
「…しろもり…はくしゅ…ぱちぱち…」
そうだな『はくしゅ』だな。
お前は何処で漢字を覚えたんだ?
「あ、ついでにランクアップもおめでとうございます」
そっちはついでか…連絡早いな。
マーニャにギルドカードを預けランクアップしてもらう。
何か力が抜けたなぁ…
これからも脱力と共に行くんだろうな俺は。
「ハァ…帰るかねぇ…」
そう言って皆でギルドを出る。
煙草を取り出し火を付ける。
煙草の紫煙が目に染みた…