『愚痴ぐらいはきいてやる。』

〜 E_1 買い物とお嬢様。〜




ここは王都の裏路地の一角、細々と営業する一軒のバー『ネリネ』
少々古めかしい内装の店はきれいに清掃されている。
昼間だからか暇そうに店主が店から出てきた。
本日の飾りは愛剣のショートソード(安もの)らしい。

「たまには買い物でも行くか。」

そう思いつき一度大きく伸びをして、店を閉める。
王都の中心街へと足を向ける。
目指すはカリュートの店。
新しく飾る変わり種の武器(安物)でもあればいいな。
そう思いつつ足をはこぶ。

中心街に近づくとガヤガヤと喧騒が聞こえてきた。

「相変わらずにぎやかな所だ」

なんとなしに屋台を冷やかしながら歩いていく。
屋台で買い食いするほどの余裕はない。
武器?武器は趣味だ。
何せファンタジーな世界だ実用は無理だが観賞用にと思ってもいいじゃないか。

まあ、実際買ったのは愛剣のみであとは貰い物だが。

どうやら目的の店についたようだ。
『カリュニス商会 王都支部』
カリュニス。
俺はあった事はないがカリュートの父親らしい。
一代で商会までにした傑物、とカリュートは言っていた。
そこの支部長を務めるのがカリュートだ。
ちなみに本部は麟族の国の龍国にある。

「邪魔するぞ。」
そういって商会のドアを開ける。

「じゃあ帰ってください。」

「・・・」
なぜか帰れと言われてしまった。

というか誰だこの子は。
明らかに人族で、この店に来るような客層には見えない。
この商会は人族以外の御用達だ。
使うのはよほどの変わり者か、俺のように個人的に伝手を持っている奴ぐらいだ。
一般の人族は、差別。
というには少々語弊があるが敬遠しているのは確かだ。

それにこの御嬢さん、貴族だろう。
見た目は赤い髪に青い瞳。
目鼻立ちはすっきりと整っている。
多少そばかすが有るが十分チャームポイントとして見れる。
年のころは10歳くらいか?
衣服は貴族のそれだ、赤を基調にしたドレスに、宝石(おそらくガーネットか?)をあしらった、意匠凝った銀のネックレスをしている。

どれだけ赤が好きなんだこの御嬢さん・・・

「あ〜初対面でいきなり帰れはないだろう?それに俺はここのカリュートに用があってきたんだ。」

「あら、ならばやはり邪魔ですわ。カリュート様はわたくしと今からお父様にご挨拶に行くのですから。」

「・・・は?」

まて、ちょっとまて。
どういう事?『お父様にご挨拶』ってあれか結婚的前のご挨拶的な何かか?
政略結婚?
いやありえない。
いくらカリュートの父親が一代でこの商会を築いたとしても人種の壁はデカイ。
それ以前に年齢が足りてないだろう、この世界『コーラリア』の成人年齢は13歳だ。
それに貴族と他種族は基本相いれないといってもいい。
大昔の戦争の歴史がまだ本や文献として残っているため、本を読む貴族はそれを引きずる奴が多いのだ。
流石に王族ともなると0ではないにしろ、差別はかなり少ない。
この多くの種族が集まる王都で、王が差別なんぞしてたらあっという間に反乱だからな。

とりあえず御嬢さんに貴族かどうか確認しなきゃな。

「なぁ、聞きたいんだが御嬢さん貴族かい?」

「へぇ、なかなか目端は利くようですわね。ええそうですわ、わたくしの名前はクリハーミュ・フォン・ミーゼリア。そう!ミーゼリア侯爵家の次女ですわ!」

どやっ!と素晴らしいドヤ顔を披露してくれたクリハーミュ。

頭が痛くなってきた・・・
しかし名乗られたからには、名乗るのが礼儀とこちらも名乗る。

「俺は高田公一、裏路地でバー『ネリネ』の店主をやってる。」

「へぇ、あなたが『賢者』でしたの。」

違う『賢者』じゃない『初心者賢者』だ。

訂正しようと口を開いたところで2人の待ち人カリュートが姿を現したのだった。



E_2 買い物とお嬢様。