『愚痴ぐらいはきいてやる。』

〜 E_2 買い物と鱗族。〜




ここは『カリュニス商会 王都支部』
真新しいショーケースに、様々な種族のための薬や。
人族では扱えないような新品の武具。
他種族が多いこの王都ならではの店と言えるかもしれない。
『ネリネ』の店主は現在その店内で頭を抱えていた。


「おお!これはわざわざ、いらっしゃいませ。コウイチ殿。と・・・ミ、ミ、ミ、ミーゼリア様!?」

カリュート・・・ドモリすぎだ。
いったいここの御嬢さんと何があった?
それと後に名前を呼ばれてクリハーミュがこっちを睨んでいるんだが。

「はい、《クリハーミュ》ですわ。さぁカリュート様!今日こそはお父様にご挨拶をしにいきましょう。一緒に!」

えらく名前を強調したな・・・
この分だとカリュートだけで一回行ってるな。

さぁ、さぁ!と急かすクリハーミュに対し苦笑を浮かべながらこちらを見るカリュート。

俺にどうしろと?正直、貴族の相手は手に余るんだが・・・
しかし日ごろから世話になってるカリュートを見捨てることをできるはずもなく。
内心溜息をつきながら声をかける。

「すまないが、こちらも商談で来ているんだ。今連れて行かれると大変困るんだが?」
実際商談なんぞない。
タダの思いつきで来ているわけだし。
これで引いてくれても問題の先送りでしかない。

「おぉ、そうでしたな!申し訳ありませんミーゼリア様、コウイチ殿の方が先約でして・・・商人としてお客さまを待たせる訳にはいきません。後日ミーゼリア侯爵家の方へ伺いますので、本日はご容赦の程を。」
キリッとした商人としての顔でそう言い切ったカリュートは、クリハーミュに対し頭を下げる。

「・・・」

正直俺要らないんじゃないかと思う。

ん?クリハーミュの反応がないと思いそちらに目を向けると、ポーッと熱っぽい視線をカリュートに送っていた。

正直10歳位とは思えない色気を出しながら小声で、
「うふふふ、もう。クリハーミュでいいって何度も言ってるのに。あぁ凛々しいお顔も素敵。それに深緑の鱗はまるでエメリア(緑の鉱石をカットした宝石。エメラルドの様な物)の様・・・」

・・・いかん、重症だ。
延々とカリュートを褒めちぎっている。

なんでこうなってるんだ?
と言うか完全に『恋する乙女』じゃないか。
流石に俺では、どうしようもないぞ。

はっ!と気づいたように。
「カリュート様、頭をお上げください。美しいお顔が見れません。あなたにとって大事な恩人ですし、その商談の邪魔はいたしませんわ。それにこの『賢者』を敵に回すようなことはするなとお父様から言われておりますの。」

ミーゼリア侯爵何を言ってるんだ?
俺が敵に回ったら1日かからず潰される自信があるぞ。
決して戦えないからではない、戦える状態での話だ。

訂正したらしたで何かしら面倒くさいことになりそうだ。
・・・ここは、流すか。

「流石ミーゼリア侯爵、分かっておられますな。」
ウンウンと頷くカリュート、カリュートは恩人補正で仕方ないとはいえ少々納得がいかない俺だった。
こいつは『初心者賢者』の由来を知っているんだが。

「カリュート、そろそろ商談に入らないか?」
事情も聴きたいし、何より『賢者』とよばれ、むず痒い。

「そうですな、では奥の部屋へどうぞ。」

「わたくしも、おいとまさせていただきますわ。カリュート様また後日。」
そう言って店を出ていくクリハーミュそれと同時に客の何人かが一礼して出で行く。
どうやら護衛のようだ。
中には常連の冒険者も居た、軽く手を振り挨拶する。

「おや?お知り合いですか?」

「うちの常連だよ。」
軽く会話しながら奥の部屋へと移動し、今回の事情を聴き始める。

「で、なんであのお嬢様はあんな『恋する乙女』になったんだ?それ以前にどうやって知り合った?」
とりあえず疑問をぶつけてみる。

「そうですな、あったのはつい最近なのです。ミーゼリア侯爵家へ他種族用の武具を納品に行った時ですな。ミーゼリア侯爵はほかの貴族と違い種族間の問題を気にしない方なので兵も人族以外が多くいるのですよ。」

「そりゃまた王都じゃ珍しいタイプだな。」
「えぇ、非常に豪快な方でこの前は練兵場で鱗族の屈強な戦士相手に腕相撲で勝ってましたよ。

それはほんとに人族か?
しかしなおさら『賢者』を警戒する理由がわからん。
それだけ強いなら俺はおそらく3秒持たない。

「出会いは分かった。ほかの鱗族もいるんだよな?」
「はい、もちろんです。しかしほかの者には話かけることはあるようですがこれと言っては・・・会った時からあのような感じでしたし。」

そりゃお前一目ぼれってやつですよ。
どうしよう、聞いては見たがこれといってできる事が無い。
くっつける訳にはいかないし。
こいつ奥さん居るもんな〜。

「カリュート、正直俺には何もできん。むしろ自分の娘だと思って接してやれ、一目ぼれの対処なんてどんな本にも載ってないからな。ミーゼリア侯爵とは話ているんだろう?」

「そうですな、それしか無いのでしょう。ミーゼリア侯爵にも同じことを言われましたが、まさかコウイチ殿からも言われるとは思いませんでした。」

「言われていたにしては盛大にドモッいたな、気をつけろよ?それとなんでミーゼリア侯爵が俺を警戒してるのか知らないか?」

「それについてはギルドですな。ギルド長が面白半分で。王族の開くパーティーでコウイチ殿の事を有ること無いこと言い触らして回ったそうで、今ではコウイチ殿は貴族の間で敵に回してはならない人間になっています。」

・・・何を言ったんだあの脳筋は、そしてなんで俺をチョイスした?
おそらくその時の気分次第で違う人物がなっていたであろう。
小一時間問い詰めたいが無駄だろう。
何せ以前は名もないランクEの冒険者を噂だけで英雄に仕立て上げ。
その理由が「暇だったから」。
仕事しろと言いたい。

変に説得力のある言葉と異常なカリスマを持つ関わり合いになりたくない人間の筆頭だ。

「あぁうん、分かったもういいありがとう。」
俺は精神をがりがり削られていくのを感じ席を立つ。

「お帰りですかな?」
「あぁ力になれなくてすまないが。」

「いえいえ、こうして話を聞いてくださるだけでも十分ですよ。それでは外までお送りします。」


そして『カリュニス商会 王都支部』を後にして自分の店まで戻ってきた。
店内に入り自分の愛剣を見上げる・・・?

「あ、変わり種買い忘れた・・・」

どうりで財布が重いわけだ、色々ありすぎてスッカリ頭から抜け落ちていた。
「しかたないまた今度行くか。」

今度行くのはいつになるか、そんなことを考えながら開店準備を始める。


しばらく店の飾りは増えないだろう。



G 店主と常連。