ギルド…それは冒険者がクエストという依頼を受け金銭やアイテムを報酬に仕事を受ける斡旋所。
ギルドの中には酒場が併設されており、長期討伐依頼を受け帰って来たものや仕事終わりの報酬で飲む者、情報交換のために居る者など様々である。
取り合えずギルドを一言で言うなら『臭い』コレに限る。
詳しくは『ギルドとアリーナン2号。』を読んでくれ。
「むぐっ、相変わらずだな…まだ二回目だか慣れそうにないな」
白を片手に抱いて受付へと進む。
「おい、にーちゃん!ここはお前のような優男が来るとこじゃねぇぜ?」
酔いどれ冒険者4人組が絡んできた!
仲間と一緒にギャハハハハ!と笑っている。
…わざわざ絡むために酒場から出て来たのか?ご苦労な事だ。
そう言えば長さ違いの籠手『重心ズレター』を修理に出さにゃいかんのだった…
ルナとの一戦で結構、歪みや痛みがひどいのだ。
しかし、優男か…初めて言われたなちょっと感動だ。
顔の傷のせいか友達にも「イケメンだけど堅気に見えない」と言われたしな。
酒場のほうでは何人かは俺とルナの戦いを見に来ていた奴が居たようだ。
何かに期待した目でこちらを見てくる…お前らは何を期待しているんだ?
「あ〜、はいはい。そうですね。それじゃ俺は受付に用が有るんで。」
適当にあしらい受付へ行こうとすると行く手を酔いどれ冒険者Bに阻まれる。
「おいおい、コイツ変なモン持ってるぜ?……うはっ!スゲー魔力だ!それ置いてけよ?俺達がブースターとして可愛がってやるからよ?」
「ふざけてんのか?酔いどれが…」
俺は、まだ魔力を感じられないのに…
モブ顔の分際で白をどうするだって?
俺の殺気が漏れる前にガタッ!と受付の方から椅子の倒れる音がした。
ふとそちらを見るとマーニャがイイ笑顔で「殺って良し!」とゴーサインを出していた…
おい、それで良いのか受付嬢。
まぁ、サインなんぞ出されなくともやるけどもな。
俺は酔いどれ冒険者モブ顔Bの頭にアイアンクローをかまし、そのまま持ち上げる。
「ギャー!痛え!痛え!」と言いながら頭からミシミシと音が鳴る。
モブ顔Bは頭にかかった手を外そうともがいている。
「なあ、お前……白をどうするって?もう一回いってみ?ほら?」
モブ顔Bに突き刺すような殺気を送る。
ミシミシがミキミキに変わったころようやく仲間が動き出す。
「テメェ!その手を放しやがれ!」
そう言って剣を抜く酔いどれ冒険者のモブ顔A、モブ顔C、モブ顔D。
酒場からも冒険者たちがゾロゾロと見物に出て来た。
「おい、マーニャ。ここで暴れても良いのか?」
サムズアップで返すマーニャ、そうですか。
「テメェ!無視すんじゃねぇ!」
切りかかってくるモブ顔A。
モブ顔Bを掴んでいる腕を狙って来る辺り、仲間思いなのかもしれん。
モブ顔Bを放し、剣を避けながら、モブ顔Bの体が下に落ち切る前に金的に蹴りを入れて沈めておく。
蹴った足をそのまま振るい、モブ顔C、Dにそれぞれ打ち込む…
モブ顔Bは…潰れたかもしれんが、問題ない。
泡を吹いていたり痙攣してたりするが問題ない。
CとDはかろうじて立っている感じだな…
「ああ、!アンドレニウス!ガンゲル!ランスター!」
モブ顔達のの名前豪華だな、おい。
Aの名前が気になるところだ。
「俺的には白の事を言ったモブ顔Bを倒した地点でもういいんだか…まだやるか?」
モブ顔Bを潰してスッキリした俺は、残りの連中を相手にするのが面倒になって来たので特大の殺気をぶつけて見た。
これでも向かってくるなら俺もしっかり相手をしようか…
殺気の余波で見物に出て来た冒険者のほとんどが自分の獲物を構えていた…
その殺気を一身に受けている冒険者モブ顔A、モブ顔C、モブ顔D。
赤ら顔はなりを潜め、真っ青になって腰を抜かしていた。
「…もう良いな?今度からは邪魔するなよ?」
冷静になれば力量差が分かったのかコクコクと頷く冒険者モブ顔A、モブ顔C、モブ顔D。
そして俺の殺気の中でもあくびをしている白は本当に大物だと思う。
俺はようやく受付にたどり着いた。
「もう、何で殺っちゃわなかったんですか?ゴーサイン見てたでしょう?」
今からでも遅くないです。と殺人を笑顔で進めてくる受付嬢。
……コイツもある意味、大物だ。
さあ!さあ!とうるさいマーニャをスルーして話を進める
「仕事を受けたいんだが、Fランクでも受けれるのってあるか?」
「むぅ、スルーですか…ありますよ?ソコのゴミを処分する簡単なお仕事です」
私が今出します。と言い切り『約束の天秤』に乗せようとするマーニャ、ヤメロバカ神達に知られたらこの先、モブ顔Bは生きていけなくなるぞ。
「それを天秤に置いたら金輪際、白はギルドに連れてこない」
「……やだな〜イチナさんってば!冗談に決まってるじゃないですか!ね〜、白たん?」
冗談、冗談か…それにしては目が座っていたな。
マーニャがだらしない顔で白を見ていると突然思い出したように声を上げた。
「あ!そうだイチナさん。ギルドカードを出してください」
何でだ?と思いながらもギルドカードを渡す。
「はい、ありがとうございます。ちょっと待っててくださいね」
そう言うとマーニャは『約束の天秤』にカードと書類を置いた。
1秒ほど間を置いてカードだけが戻ってきた。
「はい、おめでとうございます。Dランク昇格です!」
「いや、意味が分からんのだが?何で何もしてないのに2ランクも上がってるんだ?」
俺はギルドで仕事を受けたことは無い。
むしろ受けるためにここに来たんだが…?
「特例ですよ。Aランクの時姫との決闘にFランクのイチナさんが勝っちゃったモンだから流石に最下位ランクには置いとけないって事になったんです。ギルドマスターが書類を作って持って来た時は驚きましたよ。でも、これで討伐依頼とか受けれますよ」
有難いんだが…何かイカサマしたみたいで喜べないな。
「まあ、いいか。取りあえず、この近辺での討伐依頼は有るか?」
「う〜んこの近くですか?平原にハムハミが大量発生しているらしいですけど、アイツら無害ですからね。上位種のガムハミですら草食ですし、基本的に畑の物は荒らしませんし。愛玩用に飼ってる人もいる位大人しいですしね。あ、ちなみに私も飼ってますよ?……何でこんな依頼が出てるんですか?」
俺に聞くなよ。
しかし、名前を聞いても何のことだか分からんな…
「マーニャ、どこかに魔物の本とか置いてあるか?」
「え?本ですか高いですよ?安いので丸金貨1枚しますし。そんなの置いてあるところなんか、よほどの好事家か王家ぐらいですよ」
丸金貨だと!!高えよ!?
しかし、王家か…ルナも王族だったな、そう言えば。
ダメ元で聞いてみるか?
「どうします?受けますか?ハムハミ討伐」
「受けねぇよ。その説明で何で受ける選択が出来ると思うんだよ」
「ですよね〜、受けたらこの外道!!と罵ってやる処でした」
何故コイツが受付嬢なのか疑問である。
「他にはこんなのも有りますよ?」
そう言って見せてきたのはD〜Fランクの依頼状だった。
パラパラと見ていると1枚明らかにおかしい物が入っていた。
「なあ、コレ。何?」
そこには『求む!!若い力!ランク問わず!F〜SSSランクまで受け入れOK!!』と求人チラシが1枚入っていた。
「あ、コレはね?隣の大陸で召喚された勇者様たちの内のお一人が何故か『引越し業者』を始められてその支部がこっちにも出来るから、そのチラシなのよ。ギルドマスターも相手が勇者様だから断れなかったみたい。魔王もいないのに呼ばれて難儀よね勇者様も」
魔王いないのか、ファンタジーの定番なのに。
何だろうな…この字に凄く見覚えがあるんだが。
しかし、何故この世界で引越し…もっとうまい商売あったろうに。
それに、何だろうこのモヤッと感は。
「その勇者様ってのはどんなのなんだ?その内のって言うくらいなら1人じゃないんだろ?」
「イチナさん知らないの?確か、『逆星』様が4人に『聖人』様がお1人の5人召喚されたのよ。このチラシは『聖人』様の物ね」
『せいじん』はまんま成人か?
しかし『ぎゃくせい』?…あ〜、もしかして学生の事か?
俺みたいのならともかく、学生がこの世界でやっていけるのかね?
初っ端から『殺せる』人間は、俺みたいに斬り合いに慣れてるか、よほどの覚悟を持った者くらいだろう。
今は魔王が居ないらしいし、明確な目標が無いと学生にはキツイんじゃないかね?
…生まれながらの下種や外道の類は別としてだが。
「本部は隣の大陸の王都『パレサート』に有るらしいのよ。他の勇者様は国の命令でモンスターを倒したり訓練したりしてるのに、この方だけは国の命令に従わずに事業を起こして、引越しだけじゃなく。色んな所に手を付けて今じゃ大富豪よ?このチラシも日雇い雇用のチラシだから。ちょっと小銭を稼ぎたいときに受けていく冒険者が多いわ」
パレサートか一度行って見るのも悪くないか。
取りあえずは魔物の知識をどう蓄えるかだな…
「チラシの件は保留だな。なあ、適当に狩ったモンスターとかも買い取ってくれるのか?」
「素材はね、そのまま引きずって来られても困るから素材だけはぎ取ってくれれば買い取るわよ?初心者は解体場でクエストを受けて、解体部位を覚えるのが仕事ね」
それを早く言え。
「解体場は何処にあるんだ?俺も初心者。というか今日初めてまともに仕事受けるからな?」
あれ?と今気づいたのかイソイソと羊皮紙に解体場の地図を書き始めるマーニャだった。
マーニャが地図を描いている間、俺は新しく貰った加護『猫の揺り加護』を使って猫じゃらしを発現させる。
目的?もちろん白で遊ぶためだ。
白を床に下ろし、目の前でフリフリと猫じゃらしを振る。
「み!」
捕まりそうになると逃げる猫じゃらしを追って白が縦横無尽に跳ね回る!…少し、言いすぎたな。
ジャンプし前足をハッシ!と閉じる白に癒される。
猫じゃらしを地を這うように動かす。
白はそれを追い、こける。
俺はあぐらをかいて本格的に白と遊び始めてしまった。
白と俺のまわりには何とも言えないホンワカとした空間が出来上がっている。
「何をしとるんじゃ…イチナよ?」
いつの間にかファルナークいや、ルナが近くに来ていた。
「ルナか、白と遊んでたら。つい真剣になっちまった」
俺は頭を掻きながら立ち上がりルナを正面に捉える。
白は、もう終わり?とでも言っているのか、足元で「み〜?」と鳴いていた。
白を拾い上げて猫じゃらしをポケットに押し込む。
「ルナは、仕事を受けに来たのか?俺はこれから解体場で解体部位のお勉強だ」
「解体場?止めとくんじゃな。あそこは一週間行って、この近辺の底辺のモンスターしか覚えれん。それこそEやDランクならそれでもいいかもしれんがC以上だとマイナスにしかならん。お主ほどの腕が有ればすぐに上に上がるじゃろうしの?」
「いや、モンスターの解体部位が何一つ分かんねぇから行こうとしてんだよ」
「そんな物、本を読めば済むではないか?」
何言ってんのコイツ?という顔で見られた、俺の方が何言ってんのお前?である。
「ルナ…本は高いんだよ。高ランクならともかく、低ランクの冒険者に手の届く値段じゃないんだよ」
「ならば、写せばよかろう?我の写本が有るからそれを写したらどうじゃ?」
流石、王族。
その写す原文すら手に入らないから困っていたのにあっさりと写本を差し出してきた。
「有難い、でもいいのか?しばらく借りる事になるぞ?」
俺しか読まないのなら別に日本語で書いても良いしな。
「もうすべて覚えておるしな、もういらんのじゃよ……そうだ!お主にくれてやろう!!」
あらら、何か貰える事になったみたいだ。
「いや、写させてもらうだけで十分だぞ?…くれるなら貰うが」
「では、取りに行こうか!我の家まで!」
何だろう?ルナの目がランランと輝いている。
「おい、仕事受けに来たんじゃないのか?」
「そんな物は知らん!……たまには婿殿とで〜となる物もしてみたいしの。」
後半は小声で聞き取れなかったが、ルナの顔がゆでだこのようだ。
コレはこの前の事をまだ勘違いしてるのか?
何とか勘違いを解いておかないと、俺も男だし流されて王族の仲間入りを果たしそうだ。
さて、何と言うべきか…
「あ〜、あのなルナ「イチナさん!今の、今のなんですか!?白たんが、白たんが!?」……マーニャ、もう少し落ち着け何言ってるか分からん。あと地図は要らなくなった」
「そんな物、書いてられませんよ!白たんが跳ぶんですよ!?可愛くこけるんですよ!?そんな小さな事気にしてられませんよ!?」
…そうだったコイツアリーナンの同類だった。
「さあ、そのポケットの物を渡しなさい…いいえ、白たんごと置いていきなさい!!」
言ってる事はアリーナンとほぼ同等なのだが、謎のプレッシャーを放つマーニャに、思わず一歩引いてしまう。
「ふう…行くぞルナ。」
ここに居ては何かやばいと思い俺はルナの手を引いて外に出る。
何がやばいか聞かれると困るが、ソレほどのプレッシャーを放っていた…
もし会えない時間にたまった物を放出しているとなると……アリーナンと会うのが怖いな。
後ろから「白たんカムバーック!?」と聞こえるが気にしない。
ようやく臭いギルドから解放されてルナとサウス達の居る方へと向かのだった。