『猫守紀行』

〜【31】監視と煙草〜




「むうぅ…」
ギルドを出る時と違いルナの機嫌はかなり悪い…
原因?そんな物決まってる。

「……じーー……」
コイツだ。
そうか、今回の邪魔はコイツか…

脱力兵器2号パークファ。
1号は白が関わらなければ、まとも?…まあ、まともだがコイツは違う。
常時俺のやる気をそいでくる。
いわば常時発動型・気殺兵器だ。

俺達がギルドを出てしばらく歩いていると突然こいつが来た。
トコトコと足音を鳴らし、やほーとまるで抑揚の無い声を掛けて来たのだ。

…監視は離れた所からしましょう。

「…お前、サウスはもういいのか?」
パークファはコクリと頷く。

「……弟子に譲って来た…それに何故か来なくちゃいけない気がした…偉い?…」
弟子ってのはマルニの事か?

あと、監視はもともとお前の仕事だ。
それに、邪魔されて偉いもくそも無いぞ、ちびっこよ。

「ハァ…ルナ、コイツはいない物と思って行こう。ほら、案内してくれ」
俺は肘を開け腕を組んで行こうと合図する。

「むうぅ…!…仕方ないのう。で、では行こうか」
そーっと腕を組んでくるルナ…本当に男に耐性無いなコイツは。

後ろからじーっと言いながらトコトコと着いてくるパークファ。
ルナはその事すらもう気にならない様だ。

クフクフ笑って上機嫌。
ちゃんと案内してくれよ?

「……砂糖吐く……爆発しろ…」
うるせぇよ。

俺は上機嫌のルナに連れられ、ルナ行きつけのアクセサリーショップに着いた。

看板らしきものが出てない所を見ると隠れた名店って所か?
「ここじゃ、入るぞ?」
「あいよ、行こうか」
「……やー…」
…パークファよ、ソレは了解って意味のヤーかね?…何故お前が知ってるんだ?
パークファの謎が深まった所でルナが扉を開けた。

店内は落ち着いた雰囲気だ。
壁には嫌味にならない程度に大ぶりなネックレスが展示してあり。
狭い店内の奥にはガラスケース。
アレだ元の世界の宝石店のようなケースだが色が透明じゃなく濁っている。
あくまで元の世界を基準にした場合だが。

そのケースの後ろに人影があった、恐らく店主だろうな。

「おや?ファルナークじゃないか…俺より先に彼氏を作るとは良い度胸だ…表に出ろ!!」
え?何コイツ、何でこんな喧嘩腰なの?
それに彼氏って…

まだ名前は分からんが、エルフだ。
そして性別は男、レームのように漢ではないが。

流れるような金髪に青い目。
ザ・美男子その言葉が良く似合う。
友達だったら彼女とか紹介したくないくらいだ。

「ハッ!どうせ休みの日は男漁りに盛を出しとるんじゃろうが!正直お主に紹介はしたくなかったがの。王都で一番の腕を持つのはお主じゃ、仕方あるまい…」
ルナは本当に嫌そうである。

しかし、王都で一番ねぇ?
なら何でこんなに人が入って無いんだ?

「あ〜、俺は甘坂一南だ…ブースターアクセが欲しくてルナに連れてきてもらったんだが…おい、聞いてるか?」

エルフの男は俺を見てブツブツと呟きだした。
「…やべぇ…モロ好みだ…しかし、あの奥手を通り越してビビリのファルナークが腕を組んで更に愛称で呼ばせているだと?……良いね、敵が強いほど滾る」

俺は全力で引いた…
「おい、ルナ…マジで大丈夫かコイツ?」

「むう、腕は良いんじゃ、それこそ王都一…ただのぅ。コイツ何かと理由を付けて客を食うもんじゃからココは男の客が来なくなったんじゃよ」

全く持って聞きたくなかった…

「ルナよぅ…何で俺を連れて来た?本気で嫌なんだが…」
チラリとエルフの男を見ると口を歪め悦に浸っている…
頭の中で何が有った?一切、知りたくもないが…

「それは、その…浮かれておったし、イチナにできるだけ良い物をと思っての?」
しおらしい態度でそう言ってくるルナ。
そう言われると何も言えんだろうが…

ん?何か忘れているような?

「……もてもて…死すべし…」
……特に忘れている事は無いな。

「コホンッ!!…イツナくんだったね?「イチナだ」……俺はダクス・カルトイヤ、ダスクと呼んでくれ。それで?どんなブースターアクセをお求めだい?どんな要求にもこたえて見せよう!!」

イケメンスマイルを浮かべるカルトイヤ。
正直、男の俺にする表情じゃない。
さっきのを見た後だと、なおの事引く。

「そ、そうか。じゃあ…」
そう言いながらリュックを下ろし黄助をガラスケースの上に出す。
……白はポケットの中で寝ている、良く寝るなコイツ。

「コイツは黄助。俺の契約モンスターだが、俺の魔力が足りなくてこんな姿になっている。戦闘時だけでも良いから元の姿に、もしくは戦える姿にしたい。それと別途で俺自身が魔法を使いたいんだ、この二つが俺の要望だが…できるか?」

少し見せてもらうよ、と言ってカルトイヤは片メガネを掛けて黄助を見る。

「この子は…恐らくウィップティガーの転生体か…それにしては『器』が大きいな。Bランククラスの大きさだ…イチナくん良くこれ程の器を持ったモンスターと契約できたね」

「別に大したことはしてないさ。老虎だった黄助に正面から斬り合って勝っただけだ」

「老虎?…年を感じる程に生きたウィップティガーだったのか!?それを正面から斬り伏せるなんて…そうか、王宮騎士隊の年老いたウィップティガーが居なくなったと聞いたがイチナくんが…」

ルナも初めて聞いた話に驚いているようだ。

「で?どうなんだ?できるのか?」

「正直、難しいね。これだけの魔力を補填してさらに魔法を使うなんて…そうだ種類の違う魔力を使えば…いや、しかしどうやって使い分ける?…」

カルトイヤは考え込んでしまった。

「コヤツはこうなると長い…どうする?」
どうすると言われてもなぁ…

「そうだ!!大気中に漂う魔力を使えば…ならもう一つは…体内の魔力?しかし…イチナくんの魔力量は…そうか、魔石。あれならいけるか?」

俺の魔力量が何だ?ハッキリ言って見ろ。

「よし!方向は決まった。イチナくん!明後日にでももう一度来てくれ!!それまでに試作品を作っておこうじゃないか!!」

俺はカルトイヤの勢いに押される。
「お、おう。分かった…」

カルトイヤはそう言って店の奥に行ってしまった…
おい、仕事はどうする?

「……帰るか」
「そうじゃのぅ…」

「……やー…監視終了…宿に直行…ちゃお…」
一人で宿に向かうパークファ。
お前はそのまま宿に居ればよかったんじゃねぇか?

そんなパークファを見て微妙な気持ちになりながら、カルトイヤの店を出るのであった。


「これからどうするんじゃ?」
カルトイヤの店を出てルナが聞いて来た。
「あ〜そうだな…教会にでも行こうかと思ってるんだが」

そう言った途端ルナがムスッとしてしまった。
「我と居るのに逢引かえ?むうぅ…」

逢引?ああ、勘違いしてんのか。
「ガトゥーネじゃなくて田中…次元の神に用事があるんだよ」
「何?何故自身の加護神では無く次元の神なのだ?」

何故ってそりゃあ…朝の一服がしたいからに決まってるだろう?

「ちょいと願い事が有ってな。あのえせホストなら何とかなると思うんだが…」
出来無いとほざいたら殴る。

「一緒に来るだろ?」
「……我は戦の神に挨拶でもしとこうかのぅ」
え?…まあいいけど。

「ガトゥーネに会うなら言っといてくれ、暫くかかるから気長に待ってろってな」
俺もそのうち会いに行くかね?

うむ、了解じゃ。と頷くルナと共に一路、教会へと向かう。


「では、後での?」
そう言って教会の中に消えていくルナ。

教会の中には懺悔室のような場所が沢山ありそこは『言室』と名前が付けられていた。
それぞれの神に応じた言室に入ることで神の言葉を聞くことが出来る。
神託の間は直接神に会いたい人が使う場所だ、教会の言室に無い神に会う場合に使われることが多い。

ルナは恐らく『言室』に行ったんだろうな。
さて、神託の間は空いてるかねぇ?

俺は神託の間の前で来た…誰かいるな。
人影は神託の間の扉をガンガンと叩いていた。

「何時まで使ってるんですか!?順番待ちが大勢いるんですよ!?中の神様もそろそろお帰りください!」
人影はどうやら教会の職員の様だ…何だ?嫌な予感しかしない…

その時扉が重苦しい音を立て開いた。

「あ〜もう!!うるさいわね!!今、白たんの可愛さについて大事な講義をしてるの、邪魔しないで!!?」

……おい、アリーナン。
お前、朝から教会に行ってたよな?
この神託の間を何時間占拠してるんだ…そしてまだ居座るつもりか?

そして、神様相手に講義って何だ。

「あれ?イチナじゃない…という事は白たんもいるのね!!?」
止めろ、俺は他人だ。
だから、職員さんそんな連れて帰れと目で語らないで…

開いた扉から神気が漏れ出す。
俺の名を聞いた瞬間、神気に乗って嫉妬の念が俺に突き刺さる。

「ハァ、さっさと帰れよ…お前も神も」
職員は漏れ出す神気に当てられながらも俺の意見に頷いている。

神気の多さから行って2体や3体どころの話じゃないぞ?
正直、近寄りたくも無い。

白の事になると人間止めてるなアリーナン…よく、あの中で正気で居られるもんだ。

「何言ってるのよ?イチナも来るのよ!せっかく生白たんが居るのに講義なんてやってられないわ!!白メイツが待ってるのよ!?」

「俺は白への愛で解決できるほど人間止めてないんだよ。「み!?」…もちろん白は大好きだがな?」
「み〜!」
うん、何言ってるのか分からねぇが鳴き声からするに喜んでんだろうな。

うぉっ!?扉からのプレッシャーが凄い事に…
この部屋に魔王が居ると言われても俺は信じるぞ。

何処からか取り出したハンカチの端を噛んで引っ張るアリーナン。
今にも、きーーーー!!とか言い出しそうだ。

「むきーーー!!見せつけてくれるわね…やっぱり最大の壁はイチナあんたね!!」
ハンカチを消して(魔法かよアレ)ズビシィ!!と指差してくるアリーナン…
このプレッシャーも感じてないのか?職員は容量オーバーで気絶したぞ?

もう何度目か分からない溜息を付き、一言。
「ハァ…扉の向こうの神に告げる。……嫌われるぞ」

プレッシャーが嘘のように止んだ。
「何にとは言わんがな。それと次元の神に来るように伝えてくれ……あとジャンケンの勝者もな」

徐々に薄れていく神気。
やっと帰り始めたか。

「ほれ、白講義はお開きだ、お前も帰れ…暴走する様なら沈めるぞ?」

「ぐぬぬ、せっかくの白メイツが……これで勝ったと思うなよ〜!!白たん愛してる!!!」
そう言って全力疾走のアリーナン…何と勝負してたんだ、お前は。

職員に気つけをして、両者とも帰した事を伝える。
すっごい感謝された。
どんだけ迷惑だったんだ…

お礼に神託の間を使わせてもらえる事になった…
何でも今日中に順番待ちを解消することは無理なため明日に回って貰うとの事。
多少長く使っても問題ないそうな。

有難いが、原因がアレだから何とも言えないな…

そんな事を考えながら神託の間へと入って行くのだった。


相変わらずの真っ白の部屋。

俺はリュックを下ろし黄助と白を床に出す。
下ろした瞬間走り出す白…楽しそうだね?
黄助もヤレヤレと言った感じで後を追う。

黄助と白の追いかけっこを見て癒されていたら。
突然、中に『穴』が開く。

「ちょいーす!貴方のそばに『次元の神』。ことタヌゥークァでっす!呼ばれたみたいなんで来てみましテュゥワ!!」

相変わらずイラッとする奴だ。

「始めまして、『運命』を司る神のノーディスという者です」
そう挨拶するノーディス、俺では無く白に向かってだが。

白いローブを身に纏い、虹色の瞳と薄いピンクの髪。
同じくピンクのカイゼル髭を生やしたオールバックの男前だ。

まあ、ジャンケンの勝者を呼ぶという事は、白の信者を一人お招きするという事でもある。
コレは当然の帰結だろう。

さっきまで追いかけっこしていた黄助と白だが、今は黄助が白を守る様に神の前に立ちふさがっていた。

「ほう…体は小さいのに中身は老成してますね。コレはコレで…」
取り敢えずあっちは放って置いても良いようだな。

「おい、田中。煙草買って来い」
俺は次元の神に用件だけ伝えてみた。

「……え?もしかしてソレだけ?俺パシリ?」

何を言ってるんだコイツは…
「そんな訳ないだろ?まさか、神をパシリに使おうなんて大それた事思う訳無いだろ?……お前が買ってこないと、二度と教会や祭壇に白を連れて行かないだけで」

他の神はどう思うか、心配だな?

「あ、ノーディスだったか?白や黄助を撫でる時は喉元が弱点だぞ?」

「おお!!ありがとうございます!……ジャンケンに勝った会が有りました…」
男前がデレデレになっているのが少々痛い。

田中が何か、脅迫とかそんな事されたら殺されちゃう!!とか喚いているが…

「田中、ちょっとうるさいぞ?」
「いやいや!?お前のせいだよ!?」

全く…

「お前が買ってこれば済む話だろうに…報酬は白の肉球を触らせてやる」

「……で、どの位必要っすかね?100カートンくらいで良いっすか?」
いきなり下手に出たな…

しかし、100カートンだと?コイツ50万近く払ってでも白の肉球に触りたいのか?
まあ、アリーナン辺りはその倍は詰んできそうだが。

100カートンか、フルで吸って1か月半か?…まあ、いい処か。

「じゃあ、それで…コレ、銘柄な?間違えんなよ?」
そう言って次元袋から吸い終わった煙草の箱
ソフトボックス
を1箱取り出し渡す。

「うっす!すぐに行ってきます!」
箱を見て覚え、次元の穴に消えていく田中。
2秒ほどで戻ってきた…早ぇな。

「お待たせしました!100カートンです!!」
ドサドサと床にぶちまける田中…流石に多いな。
銘柄を確認、うん、会ってるな。

ご丁寧に外側のビニールは全て取り払われていた…ゴミにしかならんし、有難い。
1箱取り出しポケットに入れる…これもビニールが無い?どうやったんだ?

後は次元袋を向け掃除機のように全て収納した。

田中は、コチラをキラキラした目で見ている…
期待してるのは分かったからその目は止めろ、えせホスト。

「邪魔してすまんなノーディス。田中にも白を触らせてやりたいんだ」
「ええ、先ほどのやり取りは聞いていましたので…白さんいってらっしゃい」
み〜?と鳴く白。
随分、仲良くなったな?

「…すまんな、白。コイツに手のひらを触らせてやって欲しいんだ。頼めるか?」
「……み!」
少し間が開いたがテコテコこっちに歩いてくる様子を見ると了解のようだ。

「お、おぉ〜…やべぇよ…生白だよ…良いの?触っちゃうよ?」
白はアイドルなのか?その反応は猫にする反応じゃないぞ?

「やべぇ…プニュッってした!!俺はもうこの手を洗わない」
凄いな、字面だけ見たらちょっと熱狂的なアイドルのファンなのだが。
実際目の前にいるのは神でその対象は子猫である。

白の肉球をモニュモニュ触っている田中。
黄助を膝の上に乗せ撫でながら羨ましそうに見る、カイゼル髭。
鞭をウネウネとうねらせあくびをかます黄助。
いい加減にしろと猫パンチを繰り出す白。

うむ、そろそろ潮時か。
「ほら、田中。白が嫌がってる終わりだ、終わり」

田中から白を取り上げる。

「我慢させて悪かったな白」
謝りながら額のあたりをコショコショと掻いてやる。

「…み〜!」
ハムッと甘噛みされた、痛くないが怒ってるのか?

「やっぱり白さんは、貴方が一番の様ですね」
ノーディスはそう言うが俺には、コイツ等の言葉は分からん。


「それじゃまた、何かいる物が有ったら呼んで欲しいっす!!」
何かキャラが変わったな…お前、もっと軽いキャラだっただろう?

「それでは、私もお暇させていただきます。黄助さん、白さんまた会いましょう」
ノーディスは黄助の事も気にいったようだな。
黄助と白もノーディスの事を気にいっているようだし、たまに会ってみるのも面白いかもしれん。

田中は白の肉球を触った手を大事そうに握りしめ、アデュー!!と言って穴の中に消えて行った。
ノーディスもまた、一礼したのち溶けるように消えていくのだった…

「ノーディスは中々良い奴だったな?」
「みー」「がぅ」

黄助と白をリュックに入れ神託の間を出る。
さて帰るかねぇ。

俺は教会の外で待つルナを探して宿に戻るのだった。

煙草?吸いてぇが、流石に教会の中で吸う訳にもいかんだろう?
部屋に戻ってじっくり吸うさ。

俺だってたまには我慢するんだぜ?






【32】ランクアップ or 二つ名